日本寒蘭 CLASSIC


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日本寒蘭・人工交配の盲点


私は毎年、晩秋の三日間、福岡市にある博多スターレーンの会場で行われる寒蘭の花の展示会を兼ねた展示即売会に出店するのですが、去年、同業者の出店を見学したとき。〈釈尊しゃくそん×竹琳ちくりん〉なる商品がありました。
「なんと、まぁ!」私は自分が苦笑いしていることに気が付いたのです。
いやぁ。花がわかり易く両親に同じ割合で似てたんですよ。交配はどちらかに偏って似る事が多いのに・・・。
〈竹尊
ちくそん〉と言おうか?〈釈琳しゃくりん〉と呼ぶべきか?
「寒蘭業界はこんな局面になってしまったんだなあ・・・!」

人気のあった品種なので、それらを交配させひと儲けしようと考えたのでしょう?
これは、伝統園芸ではなく 普通の花卉園芸と言うほかありません!

〈釈尊〉と〈竹琳〉もし自然界に自生していたとしたら?・・・。
〈釈尊〉は奈半利町米ヶ岡の産、〈竹琳〉は室戸市吉良川町赤ヶ谷! 奈半利町から東に行くと、室戸市羽根町の次ですから、凄く遠いというわけでは無いのですが、ハチが交配させるには無理やね〜。突風で飛ばされたとしたらどうだろう? そもそもハチは「おや? 変わった花があるぞ、どうれ、交配させてやろう!」などとは思わないし! 両者は自生した時期が異なるかもしれないので自然界に存在していても、両者が交配する確率は限りなく、限りなくゼロに近いでしょう。「人工交配は距離も時間も超越するんやね!」
その日のイベントは暇だったので、このような事を考えていました。

それはさておき。世を騒がせた旧石器ねつ造事件のことを覚えていらっしゃいますか?
日本の考古学界にとって消し去ることのできない汚点でしょう。
一人の考古学研究者が、歴史の教科書を書き替えるような大発見を連発し、神の手と呼ばれ考古学界のスターになった。しかし、彼の行ったことは、事前に古い地層に埋めた旧石器を自ら掘り出したに過ぎない自作自演の捏造だったのである。――これは2000年11月に発覚した

何の話とお思いや? 既に多くの方が知っていることですが、残念なことに現在、私たちの寒蘭界にこれと同様なことが横行しているのです。

寒蘭の花の部分だけを買いあさっている人もいましたし・・・。「おれは××に蒔いた」「をかけ合わせた」などという話が愛好家の間で交わされるようになり(黙って蒔いている人はそれ以上に多かったことでしょう!)展示会場で花粉の盗難が多発という事件まであって後、その次に来た局面です。つまり、25〜15年後の今・・・。
ここ十数年というもの、(その寒蘭愛好会にもよりますが)今までになかった系統が多数出現し、急に展示会の景色が変わってきたと思いませんか?
ひな壇(上位入賞群)がえらくケバくなりました! まるで一般女性の集まりにキャバ嬢がたくさん混ざってきたようです。
※注:キャバ嬢を悪く言っているのではありません!

これらの品種が人工交配種として出品されているのなら何の矛盾もありませんが・・・
この状況に陥ってもなお、人工交配品種が自然種として多数混入され命名登録までされている事実が、隠蔽され続けられるのでしょうか?

各寒蘭会、業者会などの団体が、最も大切である保存会としての使命を充分に果たして下さらずに、人工交配というよりは、それに伴う捏造などの腐敗を重篤な症状になるまで放置してきたことが残念でなりません!
(人工交配品種を自然種と偽ることついて)会としては、個人個人のモラルの問題だから、できることは限られる。ということでしょう? それは理解できますが、せめて、その姿勢だけでも示して抑止力になっていただきたかった。
各愛好会によっても差があります。会によっては、人工交配種を自然種として偽ったものを優先して入賞させている・・・捏造を推奨しているとしか思えない対応です。

古典(従来のあり方)を楽しんでいる方たちの中に、人工交配品種が自然種と同列に割り込んでこられると、自然種が好きで従来のやり方で楽しんで来られた方はどう感じるのでしょうか?
それに、自然種として購入した品種の正体が実は人工交配品種だったというようなことは・・・。

愛好家、業者にかかわらず、人工交配をしない人が人工交配をしている人に被るハンディキャップは凄まじいものです。(まして、山蒔きなどの人工交配品種を自然種だと偽って出品されると不公平の格差はさらに広がります)

伝統園芸である日本寒蘭と、近代園芸である人工交配寒蘭を分離すべきである・・・
共通点は寒蘭を素材にしているということのみで(それすらも疑わしい)、理念、条件、前提も対局である両者を混同することには強い違和感を覚えます。

愛好家の皆さんが、(寒蘭と春蘭を同時に楽しんだり、並行してバラの花を育てたりというように)自然種と人工交配種を同時に楽しむことも、業者が両方を取り扱うことも良いと思います。私も両方を取り扱うことになるでしょう。むろん正しい申告で。「別のジャンルなので同列には置きませんが!」

古典は日本寒蘭の前提であり原点です。
古典を整理し、自然種を認定し、確立し、人工交配から切り離す・・・これが唯一日本寒蘭の文化、伝統を守る方法です。

伝統園芸である日本寒蘭から派生した、人工交配の分野で交配が進みすぎて、日本寒蘭の風情すら失われてしまったり、寒蘭以外のシンビジュームとの交雑種で、戻し交配が進み見分けが付かなくなるなどして収拾のつかない状態になっても、日本寒蘭の初期設定である正当な古典が確立していることによって原点に戻ることができるはずです。

それぞれが勝手な思惑で色々な組み合わせの交配をするので、あらゆる事態が起こり得る。最も危惧されるのが、
寒蘭以外のシンビジュームとの交雑種に、戻し交配が進んで見分けがつきにくくなることです。(※これは既に純粋な寒蘭の自然種という肩書で市場に出て高価な値がついている。そして、これらは次なる交配がなされフラスコ苗になったり、恐ろしいことですが、山に放たれたりしているのです。)――私はこれについては絶望視している。ここ10〜15年の山採りについてはもう自然種とは言えない。もしかしたら東洋ランですらないかもしれないという事や、「自然種認定の考え」「古典と人工交配を切り離して、まさかの時には、古典だけでも守る。という決意」の主な根拠となっているのです。
また、こういったケースのものが外国(中国、韓国など)から入ってこないとも限りませんし。

人工交配は密室で行われる行為! そしてそれは、自己申告に頼るしかないのです。
つまり問題点は、他のシンビジュウムとの交雑など生態系にダメージを与えるような交配や、自然種と偽るなどの捏造、作出者が嘘をつかなくても流通段階で誰かが捏造するなどの、常にこういったリスクにさらされているということです。
日本寒蘭の人工交配をされる方、それを扱われる方は、古典を守ることよりも遥かに高いハードルである、非常に高いモラルを生涯、持ち続ける事が求められます。

おや? 寒蘭の人工交配そのものと、その捏造のことをランダムに書いてきたので、一緒くたになって焦点がぼやけてきましたね。整理してみましょう。

【寒蘭の人工交配品種を自然種と偽ること】について
捏造ですから、個人、団体、企業にかかわらず許されないことだと思います。人工交配の支持派、容認派の方でも納得していただけますよね。私たちはこれについては断固反対です。

【寒蘭の人工交配】について
人の考えは多様です。私たちにはそれを止める権利はありません。 しかし、古典(従来の価値観)ではありません! 自然種との区別を徹底すべきです。そして、過剰生産などの問題もあります。
当たり前の事ですが、日本寒蘭にかかわる者の義務として生態系に対する最大限の配慮をしていただきたいと思います。

                                   2017年 4月29日




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